引き出しや戸棚の開閉を五感で味わう - 日常の小さな動作に気づきを見出す実践
多忙な日々の中で、私たちは多くの動作を無意識のうちに行っています。朝起きて顔を洗う、服を選ぶ、鞄に物を詰める。その一つ一つは、日々の暮らしを成り立たせる大切な要素でありながら、あまりにも当たり前すぎて、そこに意識を向けることは稀かもしれません。
特に、キッチンやデスク、クローゼットなどで日常的に行われる引き出しや戸棚の開閉は、目的を達成するための一連の動作に組み込まれており、開けて物を取り出し、あるいは物をしまって閉めるという一連の流れが、ほとんど感覚を伴わずに完結していることが少なくありません。
しかし、こうした見過ごしがちな小さな動作の中にこそ、日常を深く味わうためのヒントが隠されています。ほんの少し意識を向けるだけで、いつもの動作が五感を刺激し、新しい気づきをもたらす時間に変わる可能性があるのです。
引き出しや戸棚の開閉に意識を向ける実践
この実践は非常にシンプルです。引き出しや戸棚を開け閉めする際、その動作そのものに意識を集中してみるだけです。必要な時間は、その動作にかかる数秒から数十秒。まさに、日々の合間に手軽に取り入れられる実践と言えるでしょう。
具体的には、以下のような点に意識を向けてみます。
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触覚に意識を向ける:
- 引き出しや戸棚の取っ手、あるいは扉そのものに触れる指先の感触はどうでしょうか。素材の質感、温度、滑らかさやザラつきを感じてみます。
- 開けるときの重みや抵抗感、滑らかさを感じ取ります。引き出しがレールの上を滑る感触、扉が蝶番を中心に動く感覚に意識を向けます。
- 閉めるとき、指にかかる力加減、扉が枠に収まる感触を丁寧に感じてみます。ゆっくりと閉めることで、より多くの感触に気づくことができるでしょう。
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聴覚に意識を向ける:
- 取っ手に触れる音、引き出しが動き始める「シューッ」という音、あるいはわずかな摩擦音に耳を澄ませます。
- 扉を開けるときの微かな空気の動きや音。
- 閉める瞬間の「カチッ」という音、あるいはゆっくり閉めたときの静かな着地音を感じ取ります。いつも聞き流している音の中に、意外な発見があるかもしれません。
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視覚に意識を向ける:
- 開ける前に、引き出しや戸棚の見た目、色、質感を改めて観察します。いつも見ているものに、新たな視点を与えてみます。
- 開けたときに目に入る中の様子はどうでしょうか。物の配置、色合い、光の当たり方などに気づきます。
- 閉めるとき、扉がゆっくりと閉まっていく様子、枠に収まるまでの動きを目で追います。
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嗅覚に意識を向ける:
- 引き出しや戸棚を開けたときに、中にこもった匂いを感じ取ってみます。しまってある物の匂い、素材の匂い、あるいは空気の匂いなど、普段意識しない微かな香りがあるかもしれません。
この実践を行う際は、急がず、それぞれの感覚にじっくりと注意を向けることが大切です。ほんの数秒間、意図的に動作のスピードを落としてみるだけでも、得られる気づきは大きく変わります。
この実践がもたらす効果
引き出しや戸棚の開閉という日常の小さな動作に意識を向けることは、いくつかの効果をもたらしてくれます。
- マインドフルネスの実践: 今この瞬間の感覚に意識を集中することで、自然とマインドフルな状態に入ることができます。思考から離れ、目の前の動作に没頭することで、短いながらも心身のリフレッシュにつながります。
- 日常への気づきの向上: 当たり前だと思っていた動作や空間、物に新しい視点を持つことができます。日々の暮らしの中に埋もれていた小さなディテールに気づくことで、日常への感謝や愛着が生まれるかもしれません。
- 動作の丁寧さ: 意識を向けることで、一つ一つの動作が丁寧になります。これは、物の扱い方が丁寧になることにもつながり、結果として物を大切に扱う意識を育むことにもつながるでしょう。
- 小さな満足感: 動作に意識を向け、五感で味わうことは、脳に心地よい刺激を与えます。無意識に行っていた動作が、意識的な「味わう」行為に変わることで、短いながらも満たされた感覚や、小さな達成感を得ることができます。
まとめ
引き出しや戸棚の開閉。これは私たちの日常の中で、おそらく何十回、何百回と繰り返されている動作です。普段は意識されることのないこの小さな一瞬に光を当てることは、日々の暮らしに新しい色と奥行きをもたらす静かな実践となり得ます。
今日から、何かを開けたり閉めたりする際には、少し立ち止まり、指先の感触、耳に届く音、目に映る景色、そして鼻に抜ける匂いに意識を向けてみてはいかがでしょうか。その積み重ねが、きっとあなたの日常をより豊かに、より深く味わうための一歩となることでしょう。