写真を撮る時間を五感で味わう - 日常の記録行為に気づきを見出す実践
日常のワンシーンを、五感で深く味わう時間に変える
スマートフォンが普及し、誰もが気軽に写真を撮る時代になりました。目に留まった風景、美味しい食事、大切な人との一瞬など、私たちは日常の多くの場面を写真という形で記録しています。しかし、その撮影行為そのものに、私たちはどれだけ意識を向けているでしょうか。多くの場合、写真を撮るという動作は、単なる「記録する作業」として、せわしない日常の一部として通り過ぎてしまいがちです。
「日々の味わい方ノート」では、日常のささやかな行為に意識的に五感を向け、その瞬間を深く味わうことの価値を提案しています。今回は、普段何気なく行っている「写真を撮る」という時間を、五感を活用してより豊かにするための実践アイデアをご紹介します。この実践を通して、単なる記録に留まらない、心地よく、新しい発見に満ちた時間を見出すことができるでしょう。
写真を撮る前後の時間を五感で味わう実践
写真を撮るという行為は、シャッターを押す一瞬だけでなく、その前後の時間を含みます。この一連の流れの中で、意識的に五感を働かせてみましょう。
1. 被写体を探し、向き合う時間
- 視覚: まず、何に惹かれているのか、目を凝らして観察します。被写体の形、色、質感、光の当たり方、影の落ち方など、普段は見過ごしているようなディテールに意識を向けます。周囲の風景との関係性、遠近感なども感じ取ってみてください。スマートフォンやカメラの画面越しだけでなく、肉眼でもじっくり見てみましょう。
- 嗅覚: その場所の空気の匂いはどうでしょうか。雨上がりの土の匂い、花の香り、街の喧騒に含まれる様々な匂い。被写体そのものから発せられる微かな匂いがあるかもしれません。
- 聴覚: 周囲の音に耳を澄ませます。風の音、鳥のさえずり、人々の話し声、遠くの車の音。音がどのように空間を満たしているかを感じながら、被写体と向き合います。
2. カメラやスマートフォンを構える時間
- 触覚: カメラやスマートフォンを手に取った時の感触を確かめます。その重さ、素材の質感、指になじむ感覚、ボタンやシャッターの感触。機器の存在を五感の一つである触覚で意識することは、これから始まる撮影行為への意識を高めることにつながります。冷たさや温かさなど、デバイスが持つ温度を感じることもできるかもしれません。
3. シャッターを切る瞬間
- 聴覚: デジタルカメラやスマートフォンのシャッター音に耳を澄ませます。電子音、あるいは本物のシャッター音。その響きを感じることで、「今、この一瞬を切り取ったのだ」という実感がより鮮明になります。
- 触覚: シャッターボタンを押す指先の感触に意識を向けます。軽く押すのか、少し力を込めるのか。指の動きとシャッター音、そして画像が記録される内部の動きを想像してみるのも良いかもしれません。
4. 撮り終えた後の時間
- 視覚: 撮った写真をその場ですぐに見返してみましょう。画面に映し出された世界を、再び視覚で味わいます。意図した通りに撮れたかだけでなく、写真から伝わってくる光や色、構図、そしてその瞬間の空気感を改めて感じてみます。
- 五感の余韻: 撮影した場所から立ち去る前に、もう一度周囲に意識を向けてみてください。写真には写らない、その場の空気感や音、匂い、肌で感じる温度や湿度など、五感で感じた余韻を心に留めます。
実践のポイントと期待される効果
この実践は、一度に全ての五感を意識しようと気負う必要はありません。まずは一つの五感、例えば「見る」ことにいつもより意識を向けることから始めてみるのがおすすめです。次に「聞く」ことを意識するなど、少しずつ広げてみてください。
また、特別な場所に行く必要はありません。いつもの散歩道、自宅の庭やベランダ、部屋の中にある物など、身近な場所で構いません。短時間でも良いので、意識を向ける時間を持つことが大切です。
このような五感を使った写真撮影の実践は、以下のような効果をもたらすことが期待できます。
- 日常への気づき: 普段見慣れた風景や物の中に、新たな美しさや面白さを発見する機会が増えます。
- 集中力とマインドフルネス: 一つの行為に五感を集中させることで、今この瞬間に意識を向ける練習になります。
- 感性の向上: 五感を研ぎ澄ますことで、世界の多様な側面に気づけるようになり、感性が豊かになります。
- リフレッシュ: 撮影という創造的な行為に没頭し、五感を刺激することで、気分転換や心の活力につながります。
- 記録の深み: 単なる視覚的な記録だけでなく、その時の感覚や感情と結びついた、より豊かな記憶として写真を残すことができます。
写真と共に、五感で日常を味わう
写真を撮るという行為は、過去を記録し、未来に伝えるための手段ですが、五感を意識することで、それは同時に「今」を深く味わうための素晴らしい機会にもなります。
次にカメラやスマートフォンを手に取るときは、シャッターチャンスを待つ間に少し立ち止まり、五感でその瞬間を感じてみてください。きっと、いつもの写真撮影が、より豊かで、心地よい時間へと変わるはずです。日々のささやかな行動に意識を向けることから、日常の新しい味わい方が見つかることでしょう。